こんにちは!
キャスレーコンサルティング、サービスエンジニアリング部のNです。

先日、Microsoft 社より無償提供が発表された同社の RPA “Power Desktop Automate” が話題になっています。もともと Microsoft 社はオートメーションの民主化を掲げてはいましたが、さすがに RPA を無償提供するというのは完全に予想外でした。今回の Microsoft 社の良い意味での「期待の裏切り」は、今後ますます RPA の利用が深耕していくものと推察されます。

また、RPA とともに語られるのが DX(デジタル・トランスフォーメーション)です。企業のプレス発表や日経新聞をはじめとしたメディア媒体など、企業やマスコミが積極的に DX への取り組みをアピールしている姿は、今やほぼ毎日のように見ることができます。一方で経済産業省が「DXレポート」、いわゆる「2025年の崖レポート」で苦言を呈した通り、国内の DX への取り組みはあまり芳しくない状況でもあります。

さて、読者の皆様の中には、こんなお悩みをお持ちで本記事までたどり着いた方はいらっしゃいますでしょうか。

1.会社から「RPA を使って何かに取り組んでみて」と言われたけれども、何をすればいいのかわからない。
2.上司から「RPA を使った DX 施策を企画せよ」と無茶ぶりされて途方に暮れている。

そんな悩みをお持ちの皆様にこそ、本記事を読んでいただきたいと思っています。本記事では
1.そもそも「DX」ってなぁに?
2.DXとRPAの関係って?
3.DX観点でRPAを最大限に活用するには?
について、ITストラテジスト保有者でもある筆者が解説いたします。

1.そもそも「DX」ってなぁに?

既に述べた通り、今の日本では
「DXの話題が溢れている割には、経済産業省が苦言を呈している」
という状況にあります。これは「国内企業のDX施策は失敗しているケースが多い」ということを示しています。

そもそも「DXってなあに?」と聞かれて、皆様は明確に回答できますでしょうか。いくらDXへの取り組みを行っていても、肝心の定義がわからなければ、そこに至るまでの道筋がブレてしまうことは想像に難くありません。(※1)
そのため、まずは「DX」を定義するところから話を進めていきましょう。

DXは「デジタル・トランスフォーメーション」の略語で、日本語では「デジタルによる変革」と訳されることが多いです。この辺りまでは皆様は既にご存知でしょうが、ここでひとつクイズです。
このデジタル・トランスフォーメーションで大切なのは「デジタル」と「トランスフォーメーション」のどちらでしょう。

実は経済産業省が「DXとして成立していない」または「取り組み不十分」と指摘しているDX施策の多くは「デジタル」を重要視して失敗していることをご存知でしょうか?
本来、DXの「目的」は変革=トランスフォーメーションにあり、その「手段」としてデジタルを用いたものをDXと呼んでいます。

あくまで手段でしかない「デジタル」を目的と誤認することで、極めて重大な問題を引き起こします。例えば、よくあるDXの失敗事例が以下の通りです。

【よくあるDX失敗例】
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1.まず社長や取締役から「DXというのがキーワードになっているから、これに絡めたビジネスを模索してほしい」と情報システム部門やIT関連部門に号令がかかります。
2.指令を受けた情報システム部門は「デジタルによる変革」というキーワードを見つけ、関連する製品群や概念を調べます。おそらくその中には、RPA、IoT、OCR、AIといった単語が並んでおり、もっとも自社で活用できそうなものを選択します。なるべくコストをかけずにDX施策を模索した結果、既存のRPA製品に目をつけ、定型作業の効率化を図ろうとします。
3.そしてRPA製品を「PoC(概念実証)」と称して導入し、一部の社内業務の効率化を達成します。
4.ここまでの一連の流れを「DX施策結果報告書」といった名前の資料にまとめ、社長や取締役に発表し、DXによる一定の成果として報告します。
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おわかりいただけたでしょうか?
このストーリーでご注目いただきたいのが 2. に登場する RPA、IoT、OCR、AI といった単語ですが、よくよく考えればわかる通り、これらは全て「何かを達成するための手段」に過ぎません。
繰り返しになりますが、DXとはデジタル技術活用によるビジネスの変革が目的です。この例では、既存作業の効率化については語られていますが、ビジネスの変革については語られていないことがわかります。

ビジネスの変革を目的に掲げる以上、上記例において根本的に誤っている部分がありますが、どこかわかりますでしょうか?
実は、1.の「社長や取締役から情報システム部門に号令がかかる」という点です。ビジネスの変革とはつまるところ、既存のビジネスモデルや企業文化までも抜本的に見直すことを表しています。そのため社長や取締役は「指示を出す」人ではなく、「自ら率先してビジネス変革に向けて旗を振る」人でなければいけません。
つまり、この例においては「号令がかかった」時点で失敗が見えていたと言っても過言ではありません。

DXへの取り組みは、組織のメンバー全員がこの共通認識をしっかりと確立してから取り組むことが極めて重要です。

※1:皆様がどこかに旅行に行く際、よほど気ままな旅でもない限り、目的地を決めてから動くのが普通ではないでしょうか。目的を明確に定めないDX施策は、とりあえず電車に乗ってから考える行き当たりばったりな旅のようなものです。旅行ならそれでもいいのかもしれませんが、ことビジネスのお話では…

2.DXとRPAの関係って?

ここまではDXの定義についてご説明いたしました。この章ではDXとRPAの関係についてみていきましょう。

DX施策においては「ビジネスの変革」が肝であることは既に述べました。
ただし一般的に、これは簡単に達成できるものではありません。先述の通り「ビジネスの変革」とは、ビジネスモデルの変更はもちろん、利益体系やノウハウ、人事や教育に関する制度、給与形態や福利厚生、果ては企業の風土や文化など、企業組織の根本を見直す必要がでてきます。もっと簡単に言えば、一から会社を作り直すくらいの覚悟が必要です。

このようにDXを捉えると、「RPAやAIを導入して、事務部門の定型業務に対してPoCを実施して、効果を確認して~」という施策が、いかに本質から外れているかをご理解いただけるかと思います。

おっと、ここまで読んだ皆様からこんな苦情が聞こえてきそうです。
「そんなこと言ったってねぇ。簡単に言ってくれるけれど、じゃあ具体的にどうすればいいのよ?」
ごもっともなご質問かと思います。特に、今まさにそのような取り組みをされている方にとっては、核心を突くご質問でしょう。
とはいえ、その答えはとてもシンプルです。
答えは「変革によって新たな価値が創造できればなんでもよい」というもの。

え? 答えになってないって?
表現がやや抽象的なので、もう少し具体的な例を挙げてみてみましょう。

例えば、経済産業省は2015年から東京証券取引所と共同で、「攻めのIT経営銘柄」という独自の銘柄を指定しています。この銘柄は2020年からは「DX銘柄」と名前を変え、2021年4月現在も運用を継続しています。つまり、経済産業省はDXのキーワードのひとつとして「攻めのIT経営」を標榜しています。

一般的にIT投資には2つの側面があると言われており、これが「攻めのIT」と「守りのIT」です。
攻めのITには「ビジネスの変革・拡張」「物品・サービス提供の迅速化」「顧客・市場分析強化」「新技術の研究・応用」など、顧客や社会に対して新たな価値を提供できるようなIT施策が含まれます。
一方で守りのITには「システムの維持・管理」「セキュリティ対応」「法規制対応」など、既存のビジネスを維持するためのIT施策が含まれています。
費用に対する考え方も全くことなっており、前者が「投資」と呼ばれることが多いのに対し、後者は「コスト」と呼ばれることが多いです。

前章で取り上げた「典型的な失敗例」ですが、RPA活用が部分的な定型業務の効率化にとどまっているため、これは「コスト」に対する施策であることがわかります。単にコストを下げることがメインになっているため、顧客や社会に対する価値の提供はおろか、なぜその業務を実施する必要があるのかといった検討すら行われておらず、DXの目的から大きく外れることになります。(※2)

RPAはあくまでDXという目的のための「手段」のひとつであって、RPAやAIを活用したことが即座にDXにつながるわけではないということは、十分注意が必要です。まして経済産業省が「大半の企業はDXに対して不十分」と喚起しているともなれば、なおさらです。

※2:DXについて何度もしつこく言ってしまい恐縮ですが、それくらい「DX」に対する誤解は根深いです。例えば2020年以降のコロナ禍においてリモートワークが推進されましたが、「文書に押印するためだけに出社する人がいる」という話はよく聞く話です。本当に必要ならば押印を廃止する必要はありませんが、私としましては「この押印プロセスは省略できないだろうか?」「押印が必要としても代替手段はないだろうか?」を考えた結果ですよね?とは申し上げたくなるのです。

3.DX観点でRPAを最大限に活用するには?

「DXに対しては極めて誤解が多いこと」「DXが目的であるのに対して、RPAは手段に過ぎないこと」は既に述べた通りです。では、実際にどのように活用していくかについてみていきましょう。

前章で見た通り、RPAは定型業務の省力化に対して存分にパワーを発揮するソリューションであるため、どちらかと言えば「守りのIT」と相性がよく、一見するとDXにあわないように見えてきます。が、DXに対する認識を正しく持てば、RPAも「攻めのIT」として効力を発揮します。

例えば、一般的にRPAソリューションの提供は情報システム部門が担っていることが多く、彼らが業務部門や間接部門の業務をヒアリングしたのち、その業務シナリオをRPAに落とし込むという作業を行っています。ところが、ここに情報の乖離が発生することがあります。
情報システム部門はRPAの使い方を知っている一方で、業務の流れについてはあまり熟知していないことが往々にしてあります。逆に業務部門等は業務の流れには精通していても、RPAの使い方がわかりません。(※3)
つまりこの場合、業務部門のメンバーがRPAを自由自在に操ることができたら、それは「無敵」と言っていいほどのパワーを発揮します。
もしもこのような組織が作り上げられたなら、それはもう十分に「変革」に値すると思いませんか?

このような「変革」はどのように実現できるでしょうか。例えば以下のようなプロセスを経ていくことになると思われます。
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1.経営者クラスの人達が「業務部門自身のRPA化による抜本的な変革」といった形で、具体的な経営目標として掲げます。
2.経営目標を受けた情報システム部門が主体となって、設備投資や教育投資を行い、RPAを社内文化として浸透させます。
3.業務部門は業務プロセスを一から見直し、業務の要不要や承認フローの変更などを経て、最終的に残った業務に対するRPA化を実施します。
4.業務の効率化が図れたならば、今度はこの経験を「RPAによる業務プロセスの効率化コンサルティング」として、同じように業務部門の省力化を行いたい企業・組織にサービスとして売り込みます。
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いかがでしょうか。
小手先のRPA施策や単純な業務効率化に終始するのではなく、経営目標やビジョンとして見据えることによって、RPA導入の動機や視点は180度異なります。
このようにして培ったノウハウや経験によって、社会に新しい価値を提供することができるようになります。

上記は一例ですし、既に世の中に存在している二番煎じ・三番煎じの案です。が、考え方と行動ひとつで「業務効率化」や「コスト削減」という守りのITも、「社会に対する新たな価値提供」という攻めのITに転じることが可能であることをご理解いただけたのではないでしょうか。(※4)

※3:実際にRPA化してみると体感できるのですが、日常業務がいかに「適当に」行われているかがよくわかります。この「適当」とは決して悪い意味ではなく、むしろ人間の素晴らしい部分です。そのせいか、RPA化する際に、毎日見ているはずのベテラン作業者ですら「そういえばこんなプロセスや画面があった」なんてことはザラにあります。RPAは「適当さ」を許さないため、作業担当者と開発担当者の認識の乖離を埋めるのは大変です。
※4:誤解していただきたくないのは、「単純なIT化」や「業務効率化」は、それはそれで素晴らしいものであるということです。紙ベースで行われていた業務が電子化されたり、定型業務のRPA化によって業務効率化が図られるなど、IT化自体は否定されるものではありません。ただ単に「DXと呼ぶのはおかしい」というだけの話です。単純な電子化には「デジタイズ」、デジタル化を推し進めた上での効率化には「デジタライズ」という言葉がありますので、「DXはこれらとは違う概念である」という点は抑えておく必要があります。

4.まとめ

ここまで、DXとRPAを絡めて記載してきました。
まとめると、以下の通りになります。

  1. “DX” は経営の課題。情報システム部門や業務部門に丸投げしてよい問題ではない。
  2. “RPA”や”AI”といった「なんか真新しそうな技術っぽい言葉」に飛びつくのではなく、しっかりと用途を定めて対応する。
  3. 業務プロセスの見直しはもとより、企業の業務のやり方や制度、文化に至るまで再検証を行うことが重要。
  4. 例え今は「守りのIT」であったとしても、経営ビジョンや行動方針によっては、十分に「攻めのIT」に転化でき、社会に対して価値を提供できる。

経済産業省は「DXレポート」の中で、「2025年を目途に、対応できない企業は淘汰される恐れがある」と主張していますが、一方で「適切に対応できさえすれば、目の前にはチャンスがいくらでも転がっている」とも主張しています。

経営者がDX施策に主体的に携わって十分な投資を行い、具体的なビジョンのもとに関連施策を次々と打ち出していく。その中で全体の業務プロセスの見直しを行い、廃止する部分は廃止し、省力化できる部分はRPAやAIなどに任せ、本業プラスアルファ部分に人的・設備的・技術的リソースをつぎ込んで、トライ&エラーで新しい価値を創出していく。
これこそがDXの本来の趣旨です。

キャスレーコンサルティングでもDX施策に取り組むお客様向けに、DX支援サービスの展開やDX支援セミナーの開催を推進しております。もしもDX施策においてお困りの点がある方は、ぜひともフォームよりお問い合わせください。お客様のご要望に合わせたご提案をさせていただきます。

特定の製品や技術に偏ることなく、必要に応じた手段を用いられるようにすれば、必ずやDX施策は成功すると信じております。読者の皆様におかれましては、DXについて正しい理解を持った上で、施策を推進いただければと思います。
本記事が皆様のDXに対する考え方の起点になっていただけたなら、これに勝る幸いはありません。

以上、ここまでお読みいただきありがとうございました。

N
Service Engineering 部 N
ITストラテジスト保持者。マクロ経済や企業戦略に関するお話が大好き。世の中にDXが徐々に浸透していっているのを喜びつつ日々の業務に邁進。