キャスレーコンサルティングSI部の廣田です。
今回は誤読されないドキュメントの書き方についてのコツを、実例を挙げて説明させていただきます。

矢印が乱用された図

たとえばこんな仕様書を書かなければならなくなったとき、伝えたい事を図で説明したいとき、どうしたらいいでしょうか。

先にこの図をご覧下さい。

ブラウザ

この図が何を意味しているか理解できそうでしょうか。

一見しただけで分かる方はなかなかいないのではないでしょうか。

例えば、以下のような状況だったとします。

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あなたは携帯電話のwebブラウザの表示システムの開発チームに所属しています。

現在そのブラウザにはカーソル(ポインタ)の表示機能が実装されており、キー操作によって上下左右に移動が可能です。
下向きのキーを押し続ける事でカーソルを下へ移動させ、ブラウザの表示域の最も下までたどり着き、それでもまだキーを押し続けていると、それ以上カーソルは移動せず、代わりにブラウザがスクロールすることで相対的にカーソルの移動が実現します。

ここに仕様変更がありました。
スクロールが始まるタイミングを「カーソルが画面の下端にたどりついたとき」から「画面下端から画面の高さの1/4の位置に辿りついたとき」に変更して欲しい」という事でした。そしてページの最後までスクロールしてもまだキーを押し続けた場合、カーソルはそこから画面端まで下向きの移動を再開します。
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この仕様変更を図を用いてドキュメントに起こすとどうなるでしょうか。

実は、仕様変更を表す際に書かれた図が実際にこのようなものでした。

これでは矢印だらけでよくわかりません。
それぞれの矢印が「移動」「変化」「時間経過」「指示」などを意味しているのですが、どれがどの意味で使われているかが分かりにくいため意味不明な図となってしまっています。

上の図にそれぞれ意味を付け足すとすれば、このようになります。

ブラウザ意味つき

これでかなりマシになりました。

矢印の分類

さて、では矢印にはいったいどれくらいの意味を持たせることができるのでしょうか。

その前に矢印が持つ情報量について考えてみましょう。矢印と言えば普通は始点と終点があり、その間を線で結び、終点を尖らせれば出来上がりですが、その線も直線と曲線とが存在します(本文中では「柄(え)」と呼ぶことにします)。そしてそれらに意味があるのか、別に意味はないので始点はどこでもいいのか・直線でも曲線でもいいのかなど、用途によって様々な事に気付きます。
(1)移動

移動

始点は移動前の位置、終点は移動後の位置ですが、その間を結ぶ柄については意味があったりなかったりします。先ほどのカーソルの移動の例で言えば直線移動ですから柄も直線にすべきでしょうが、例えば日本地図上に「東京から大阪への移動」を表す矢印を描く場合、はたして東京駅から新大阪の駅まで走る新幹線が通る線路をなぞるような柄にする必要があるでしょうか。単に「ここからここまで移動した」事を表す場合は柄に意味がない場合があります。
移動には絶対移動と相対移動とがあります。絶対移動はそのままある対象物が動くことですが、対象移動とは対象物でなく、それ以外のものが逆方向に動くことで「動いたように見える」というものになります。先ほどのカーソルの例で言えば、背景が上向きにスクロールすることでカーソルが下に移動した「ように見える」事を意味します。
対象物ひとつの移動は簡単ですが、それ以外の背景すべての移動を表すにはやや大きいところからの視点で描いた図が必要になるでしょう。

大きい視点

※余談ですが、絶対移動と相対移動とでその向きが逆になることにも注意が必要です。例えば一般のwebブラウザでは、縦に長いページを見るときにウィンドウ右端のスクロールバーを下へ移動することでページの下を読むことが可能ですが、スマホで読むときはウィンドウの内部を指で触って上に押し上げます。マウスでは上から下へ、スマホでは下から上へ手を動かしている事になります(意識せず使っているでしょうが)。

(2)向き

駅の案内盤などに描かれた矢印は大まかな向きだけを意味に持つため、始点と終点の2点がそれぞれ何かを表しているわけではありません。そのため柄の長さもまた意味がないことになります。

たとえば上の図の矢印が少し右にずれていたとしても、案内としての役割は何も変わりません。
向きについてはそもそもその方向しか意味を持たないため、それほど考慮すべき点はありません。
あるとすれば(あまり考慮の必要がある案件はないでしょうが)次元の数が多いときでしょうか。2次元のドキュメント内で上下左右以外に「高さ」を表すz軸を示すのはややコツがいることになります。

三次元

※これも余談ですが、地面に対し垂直に立てられた案内盤では上向きの矢印を「前」、下向きを「後ろ」という意味で使っています。そのままの向きで読めば「下から上へ伸びる矢印が示す向きは上だろう」となってしまいますが、これは人間の視界が2次元であり、見たものを2次元の絵として処理するため、たとえば「床に描かれた前向きの矢印」と「正面の壁に書かれた上向きの矢印」は首を上げ下げすれば同じものとして見えるため同一視されています。
一方エスカレーターで別の階に移動するときなど、本当の上下の意味を示すときにも同じように上向き・下向きの矢印を使うため、時として混乱を生みます。たとえば地下鉄六本木駅からある出口へ上向き矢印表示のある案内板を頼りに歩いていると、そのうちにある地点で突然下向き矢印を目にすることになり、あれ出口を通り過ぎたかなと勘違いすることがあります。実際には改札を出たところで地面が他と比べ二段ほど低い地点があり、いったん階段を下る必要があるためこうなっているようです。

(3)変化・変更

図3

何かが変わったとき、変更の前後を表す2つの図の間に引く矢印です。そのため始点と終点という点というよりは図を結ぶためのものとなりますが、その位置はそれぞれの図の位置に因るため、例えば2つの図の位置を逆に描いたら矢印の向きも逆となります。
また柄の直線性は意味がなく、単に2つの図を結んでいればいいということになります。

(4)指示

図4

多くの場合は終点(矢印の尖ったところ)が示す位置に注目させるために用います。始点にコメントやフキダシを書いて説明する使い方もよく見ます。
これも向きや柄には意味がありません。

(5)処理・処理の工程

図5

システムの流れを示すものですが、これが最もわかりにくい矢印の用途となります。「処理Aが終わったら処理Bがはじまる」を表すときに処理Aを始点・処理Bを終点とする、という使い方が一般的であり、この矢印を順次目で追うことで一連の処理の流れが分かるようになっていればいいのですが、時としてこの矢印の列は枝分かれや並列、循環を起こし、どの処理よりどの処理が先に行われるのか、それは常にその順番なのかがわかりにくくなってしまいます。

便利だからと頼り過ぎない

さて、こうした様々な種類の矢印、読み手に混同させることなく使うにはどうしたらいいのでしょうか。

種類ごとに矢印の色や柄の太さなど、見た目を変えて区別するというのもひとつの方法でしょうが、そもそもこの便利すぎる矢印というものの使用を控え、いくつかは矢印以外の方法での表現を考える必要があるのではないでしょうか。
ただの線で代用できるなら、あるいは表や注釈文章でその対応を説明できるなら、矢印を使わない方法も考えてみるべきでしょう。

少なくとも矢印には上のような意味があり、時としてそれらは混同する可能性があるという意識を持っておくだけでも、読みやすいドキュメント作成ができるようになると思います。
「この文章は、この図は誤読される可能性がある」ということを意識しておくだけで、出来上がったドキュメントの可読性はかなり上がります。この一点だけでも覚えておいてはいかがでしょうか。