皆さま、肌寒い季節となりましたが、いかがお過ごしでしょうか?

 

先日の10/18(日)に、日本マーケティング学会において、サステナブル・マーケティング研究会のリサーチプロジェクトによる学会発表が行われましたので、その報告会の内容をダイジェスト版でお届けしたいと思います。

 

サステナブル・マーケティング研究会とは?

サステナブル・マーケティング研究会の主な目的は、企業から見た消費者や投資家などのステークホルダーに対する「コミュニケーション・デザイン」のあり方を、サステナブルな観点(ESG、SDGs、CSV等)から明らかにすることです。

SDGsやESG投資を初めとする世界的なサステナビリティ市場の発展に伴い、企業は顧客である消費者を自社の経済・社会活動に巻き込むような、より包括的なマネジメント体制を築く必要があります。

 

しかしながら、現在のマーケティング活動は、ESGやSDGsの時代に適応したサステナブルな消費者へのアプローチ、マーケティング、ブランドマネジメントにおいて一貫したシステムを構築することができていないのが現状です。

 

そこで、当研究会では、サステナブルな視点から、企業の消費者へのコミュニケーション・デザインやブランドマネジメント、組織体制についての研究を行い、海外の先進事例や消費者調査などの実証研究を通じて、サステナブル・マーケティング全体の体系を明らかにしようとしています。

当プロジェクトの研究期間は2018年4月~2021年3月で、プロジェクトリーダーの駒澤大学の青木茂樹氏を筆頭に、その他、サステナブル・マーケティングに共感する学者及び実務家のメンバーで構成されています。当社は日本のCSVリーディングカンパニーである株式会社メンバーズと共に2017年の研究発足段階から参加しており、セミナーや学会での登壇、研究、発表の一部を担っております。

 

当社の研究参加背景・動機

この研究は主に消費者をターゲットにしたもので、例えば、我々が消費者をターゲットにした事業・企業のマテリアリティ策定やインパクト測定の支援を行う際に、サステナブル・マーケティングの視点を取り込んだサービスの提供に欠かせない要素になると考えています。

また、これらがどのようにESGやSDGsといった要素と連携しているか、また、将来的には「株主のマーケティングにより、サステナブル志向の株主が増加したら、資本市場での企業価値評価がどのように変化するのか?」などの研究にもつなげることを想定しています。

 

※例えばGの観点では、マーケティング活動によりリスクやレピュテーションコントロールの効果に差が出ることは前回のブログのとおりです。

 

当日の発表内容

さて、当日の報告会の構成は、第一部が「ポストコロナの消費者行動の変化に関する調査」、第二部が「企業ブランディングにおけるサステナブル価値の重要性」、第三部が「サステナブルマーケティングの戦略ケース」として、主にCOVID-19が与えるマーケティング活動への影響の外観、当該活動におけるブランドとマーケティングの関係性、さらに国内外のケーススタディの発表がありました。

 

本記事で全てをお伝えすることはできませんが、ぜひ実務や今後の研究テーマ等にお役立ていただければと思います。

 

第一部「ポストコロナの消費者行動の変化に関する調査」

一つ目のセッションは株式会社メンバーズの萩谷氏による、ポストコロナによる消費者行動の変化に関する調査報告でした。

 

調査の主な目的は、コロナによる消費者意識の変化を昨年の調査結果と比較しながら、その変化の特徴を探るというものでした。

アンケートは9月末に3日ほどかけて実施された新しいデータで、当日は15問の設問の中から重要な項目をいくつかピックアップしてお話されていました。

 

調査結果から分かったことは、「地球温暖化問題への関心」がとても高まっていること、「企業にその解決を期待する」層が増えていること、「解決に積極的に取り組む企業の商品やサービスへの購買意向」も高まっていること、でした。

地球温暖化への関心、および社会課題への関心の高まりは消費者の企業の役割への期待も向上させ、企業はビジネスを通じた社会課題への貢献を求められているというように考えられます。

そして実際にどのような企業がサステナブリティに取り組む企業と連想されるのかという質問には、Z世代に当たる20歳から24歳の層は思い浮かぶという回答が高くなり、世代間での差があることが考察されました。

 

また、非常に上手なマーケティング・コミュニケーションを行っている企業を消費者は具体的な企業として連想されるというお話もあり、国際的なイニシアチブに日本でも本気に取り組んでいる企業がアンケート結果に入っていなかったこともあり、コミュニケーションの重要性が窺えました。

企業が行っている環境や社会への取り組みをマーケティングの領域でも上手くアピール出来るように企業内で連携し、消費者が課題解決にいたる商品へアクセスが可能となるようなサステナブルマーケティングを行っていくことが、今後重要になってくると考えられます。

 

社会の課題を解決する企業の商品やサービスへの購買意欲の高まりは、企業として無視できない社会的ニーズになっており、今後は単なる社会貢献・環境活動ではなく、マーケティング戦略としてのサステナビリティにより力を入れていく必要があるとの結論です。

 

第二部「企業ブランディングにおけるサステナブル価値の重要性」

2つ目のセッションは、駒澤大学の青木教授、県立広島大学の江戸教授、法政大学大学院修士課程の落原氏による、ブランド(プロダクト)カテゴリーにおけるサステナブル価値の違いが企業ブランディングに及ぼす影響に関する研究報告でした。

 

企業生命に影響しかねないマーケティングやブランディングを企業はどうして正しく行うことが出来ないのかという問題意識が発端となり、企業ブランディングにおけるサステナブル価値の研究が開始されました。

企業内の組織構造の問題としてマーケティングや製品開発などでも守りと攻めがあり、管理主体が異なるために組織内でどれだけ密にコミュニケーションをとれているかが非常に重要になります。

 

企業は様々な社会から投資されているという考えの元、広い意味で社会でのプレゼンスを確立する「Brand Presenting(ブランド存在)」、コミュニティや外部のNPOなどからの要求に対処する「Brand Defending(ブランド防御)」、顧客や株主、取引先などからロイヤルティを獲得出来るような「Brand Building(ブランド構築)」以上の3つの要素によって企業のブランドイメージが作られているとの主張です。

さらに、企業が掲げているパーパスやビジョンは最初に最も大切と考えられるもので、SDGsやサステナビリティと関連付けたパーパスがあらゆるステークホルダーとのエンゲージメントを可能にすることから、プロダクト・ブランド、コーポレート・ブランドと共に重要です。

 

今回の発表では、企業がステークホルダーを巻き込むために行うエンゲージメントによって実際にステークホルダーが価値提供を行うのかという観点から、消費者が商品に抱く価値分析を行っていました。

消費者が商品を購買する際に考慮する価値を「機能的価値」「情緒的価値」「サステナブル価値」の3つに分類し、商品カテゴリー毎に消費者が感じる価値にどのような違いが生まれるかを分析されていました。

 

研究内容の詳細は省略しますが、結果として「商品カテゴリー毎に消費者が感じるサステブル価値が変わること」「商品カテゴリーによって3つの価値の偏りがあること」「同じ商品価値でも商品カテゴリーによって意味が異なること」が考察されました。

例えば、自動車や食器用洗剤の場合は機能的価値が高くなり、飲料は機能的価値とともに情緒的価値も重要になる、「ダイバーシティ」と「働き方改革」のサステナブル価値はどの商品カテゴリーにおいても評価は低くなっているなどです。

ダイバーシティや働き方改革はプロダクトとは関係なく、企業として取り組む姿勢に関する部分であることが認識されていました。

サステナブル価値でも、自動車は従来より環境の側面が強いコミュニケーションを行ってきたこともあり、サステナブル価値とは別に環境価値という項目が挙げられ、また、商品カテゴリーによっては情緒価値が機能価値に移ることもありました。

 

以上のように、商品カテゴリー毎にサステナブル価値の重要性が異なることが示唆されました。

今回の発表では、コーポレートのブランディングとプロダクトのブランディングの関係性が補完関係にあり、品質保証としてのコーポレート・ブランド、購買駆動機能としてのプロダクト・ブランドを構築していかなければならず、サステナビリティの戦略的な位置付けが曖昧になることが多いですが、このようなマクロ的・ミクロ的な関係があることを認識してブランディングを行っていくべきだとの結論です。

 

第三部「サステナブルマーケティングの戦略ケース」

3つ目のセッションは、上記で発表した理論的なサステナブル・マーケティングを実際の企業はどのように行っているのか、その事例紹介でした。

 

戦略ケース①

初めに、株式会社メンバーズの原氏による著書のご紹介と、その著書に掲載されているサステナブル・マーケティングの事例紹介がありました。

 

社会課題と企業課題に同時に取り組み、全体で一緒にやっていくコ・クリエーションの必要性を訴え、その手段としてのサステナブル・マーケティングの重要性を示されていました。

著書の中では、従来のマーケティングの4Pを縦軸に、SDGsの5Pを横軸に取ったマトリクスによる新しいフレームワークが紹介されていて、そのマトリクスをベースに該当する企業の取り組み事例を紹介するというものになっています。

 

ここでは幾つか抜粋してご紹介します。

 

ケース①:2007年に創業したスウェーデンのベンチャー企業であるトリワ(TRIWA AB)という時計会社は、世の中で使われた武器の廃材を利用した時計を販売し、その時計を身に着けることで平和を象徴するというメッセージングを行っています。

 

ケース②:また、こちらもスウェーデンのフィンテック企業であるデコノミ―(Deconomy)がCO2排出量に制限を設けた新しいクレジットカードを発表しました。排出したCO2によってカードの利用制限が行われるだけでなく、利用する顧客は毎日自分がどれほどCO2を排出したかを目で確認することができます。

 

ケース③:国内の事例では、全日空空輸(ANA)が地域のサステナブルな商品を見つけてリテールで販売するという活動を通じて、会社と地域が一体となって現地の商品を応援していく応援購買のような活動を行っていることも紹介されていました。

 

サステナビリティをマーケティングに取り入れることはビジネス自体をサステナブルなものにするという考え方であり、現状としてマーケティング界隈ではサステナビリティとの繋がりや見せ方への意識が低いという認識があるというお話をされていました。

最後に、ぜひ一緒にマーケティングから変えていきましょう、との熱いメッセージがありました。

 

【参考】原氏の著書はこちら「SDGsが生み出す未来のビジネス(できるビジネス)

 

戦略ケース②

続いて、Ideas for Good(ハーチ株式会社)の加藤氏が同じくサステナブル・マーケティングの事例をご紹介されていました。

 

加藤氏は、前セッションで挙げられていた「情緒的価値」「機能的価値」にあたる本来顧客が大切にされるであろう部分を犠牲にせず、「サステナブル価値」を訴求していくことの重要性に言及した上で、その具体的なモデルとなり得るマーケティングの方法を海外および国内の企業の事例を元に解説されていました。

 

こちらも沢山の豊富な事例をご紹介されていましたが、全て載せることは出来ないので3つほど抜粋してご紹介します。

 

ケース①:1つ目はアメリカのドミノピザの事例です。ドミノピザは、公共事業として行われる道路の舗装を自社で行っています。これにより、コミュニティのインフラに貢献しているだけでなく、配達時のピザの状態維持、お客様の満足度向上に繋がるドミノピザにとっても欠かせないアセットを獲得しています。

 

ケース②:2つ目の事例は、スコットランドのブルドック(Brewdog)が自社ビールの空き缶50個と株式一株を交換するというキャンペーンです。このキャンペーンを通じて、自社の取り組みを応援してくる株主をガバナンスに組み込むという戦略を実行しています。ただ単にお金で株式を購入するのではなく、実際に商品にロイヤルティを持つ顧客を株主とすることでサステナビリティの経営基盤を安定させることができます。

 

ケース③:3つ目はタイ国際空港の事例です。通常、飛行機に乗るとマイルを獲得できるというサービスを、コロナの感染者数を抑えるために自宅から半径100メートル以内にいるとマイルがたまるというサービスに変更しました。それにより、コロナの感染拡大抑制に貢献しただけでなく、長期的にコロナが収束することによって飛行機の搭乗再開に繋がり、自社の利益となることが考えられます。

 

加藤氏は最後に、機能的・情緒的価値を犠牲にしない、あるいは高めるサステナブル価値の提供、長期的に見てビジネスにとって経済合理的となる問題の特定、そして消費者が商品を通じて社会に貢献できる体験の設計が重要であるとの締めくくりでした。

 

【参考】サステナブル・マーケティングの事例をもっと見たいという方は、Ideas for Goodよりご覧いただけます。

 

まとめ

いかがでしたでしょうか?

 

学会は1時間半かけて行われましたが、タイトなスケジュールで且つ、セッションの内容も濃く、現在のサステナブル・マーケティングのトレンドや消費者の意識の変化について勉強になるコンテンツでした。

そして、これから各企業が経営にサステナビリティの考え方をどのように統合し、マーケティングなどの各重要な機能と連携していくのか、まさに全体的なマネジメントが求めらていると感じました。

 

今回はBtoCの話が主に扱われていましたが、BtoBでもサステナビリティに取り組んでいる企業としか取引を行わないという積極的な行動をとる企業が表れる場合も考えられるので(実際にそのような企業は存在します)、ビジネスの対象や規模に関係なく、企業はサステナビリティと向き合わなければならない時代に来ていると思われます。

 

引き続き、サステナブル・マーケティング研究会の研究活動にご期待ください!